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FirefoxやChromiumのアドオン(拡張機能)で効率よくタブを並べ替えるには

この記事はQiitaとのクロスポストです。

Firefox 57以降のバージョンや、Google Chromeをはじめ各種のChromiumベースのブラウザでは、アドオン開発に共通のAPIセットを使用します。タブバー上のタブを任意の位置に移動するAPIとしてはtabs.move()という機能があり、これを使うと、タブを何らかのルールに基づいて並べ替えるという事もできます。実際に、以下のような実装例もあります。

このようなタブの並べ替え機能を実現する時に気をつけたいポイントとして、 いかにAPIの呼び出し回数を減らし、効率よく、且つ副作用が少なくなるようにするか? という点があります。

ソートアルゴリズムの効率とは別の話

「並べ替え」「効率」というキーワードでソートアルゴリズムの事を思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。確かにそれと似ているのですが、実際にはこの話のポイントはそこにはありません。

確かに、ソート自体は前述の2つのアドオンでも行っており、

  • バラバラの順番のタブをコンテナごとに整理する
  • URLなどの条件でタブの順番を整理する

という処理はまさにソートそのものです。しかし、現代のJavaScript実行エンジンは充分に高速なため、余程まずいアルゴリズムでもない限りJavaScriptで実装されたソートの速度自体は実用上の問題となりにくいです。

それよりも、その後に行う 「実際のタブを移動して、算出された通りの順番に並べ替える」 という処理の方が影響度としては深刻です。「タブ」というUI要素を画面上で移動するのは、純粋なデータのソートに比べると遙かにコストが大きいため、数百・数千個といったオーダーのタブをすべて並べ替えるとなると相応の時間を要します。また、タブが移動されたという事はイベントとして他のアドオンにも通知され、その情報に基づいて様々な処理が行われ得ます*1ので、そのコストも馬鹿になりません*2

タブの並べ替えには手間がかかる

実際の並べ替えの様子を図で見てみましょう。[i, h, c, d, e, f, g, b, a, j] という順番のタブを、[a, b, c, d, e, f, g, h, i, j] に並べ替えるとします。

(図:並べ替え前後)

ぱっと見で気付くと思いますが、これは a, b, h, i の4つを左右で入れ換えただけの物です。しかし、人間にとっては一目瞭然の事でも、プログラムにとっては自明な事ではありません(それを検出するのがまさにこの記事の本題なのですが、詳しくは後述します)。

最もナイーブな*3実装としては、元の並び順からタブを1つづつ取り出していくやり方が考えられます。その場合、行われる操作は以下のようになります。

(図:ナイーブな並べ替えの流れ。計8回の移動が生じている様子。)

というわけで、この場合だと10個のタブの並べ替えに8回の移動が必要となりました。元のタブの並び順次第では、移動は最大で9回必要になります。

ちなみに、tabs.move()は第一引数にタブのidの配列を受け取ることができ、その場合、第一引数での並び順の通りにタブを並べ替えた上で指定の位置に移動するという挙動になります。そのため、

browser.tabs.move([a, b, c, d, e, f, g, h, i, j], { index: 0 });

とすれば、APIの呼び出し回数としては確かに1回だけで済ませる事もできます。ただ、これは内部的には

browser.tabs.move(a, { index: 0 });
browser.tabs.move(b, { index: 0 + 1 });
browser.tabs.move(c, { index: 0 + 2 });
browser.tabs.move(d, { index: 0 + 3 });
browser.tabs.move(e, { index: 0 + 4 });
browser.tabs.move(f, { index: 0 + 5 });
browser.tabs.move(g, { index: 0 + 6 });
browser.tabs.move(h, { index: 0 + 7 });
browser.tabs.move(i, { index: 0 + 8 });
browser.tabs.move(j, { index: 0 + 9 });

といった移動操作と同等に扱われるため、タブが実際に移動されるコストは変わらず、タブが移動された事を通知するイベントもその都度通知されます。

ソートと同時にタブを移動するのではどうか?

ここまではArray.prototype.sort()でソートした結果に従って、後からまとめてタブを並べ替えるという前提で説明していました。では、Array.prototype.sort()を使わずに独自にソートを実装し、その並べ替えの過程で同時にタブも移動する、という形にするのはどうでしょうか?

例えばこちらのクイックソートの実装の過程にtabs.move()を呼ぶ処理を追加すると、以下のようになります。

// 再帰によるクイックソートの実装
function quickSort(tabIds, startIndex, endIndex) {
  const pivot = tabIds[Math.floor((startIndex + endIndex) / 2)];
  let left = startIndex;
  let right = endIndex;
  while (true) {
    while (tabIds[left] < pivot) {
      left++;
    }
    while (pivot < tabIds[right]) {
      right--;
    }
    if (right <= left)
      break;
    // 要素の移動時に、同じ移動操作をタブに対しても行う
    browser.tabs.move(tabIds[left], { index: right });
    browser.tabs.move(tabIds[right], { index: left });
    const tmp = tabIds[left];
    tabIds[left] = tabIds[right];
    tabIds[right] = tmp;
    left++;
    right--;
  }
  if (startIndex < left - 1) {
    quickSort(tabIds, startIndex, left - 1);
  }
  if (right + 1 < endIndex ){
    quickSort(tabIds, right + 1, endIndex);
  }
}
const tabs = await browser.tabs.query({windowId: 1 });
quickSort(tabs.map(tab => tab.id), 0, tabIds.length - 1);

先の [i, h, c, d, e, f, g, b, a, j] を [a, b, c, d, e, f, g, h, i, j] に並べ替えるという例で見てみると、

(図:クイックソートでの並べ替えの流れ。計4回の移動が生じている様子。)

このように、今度は4回の移動だけで並べ替えが完了しました。先の場合に比べると2倍の高速化なので、これは有望そうに見えます。

……が、そう考えるのは早計です。この例で並べ替えが4回で終わったのは、部分配列の左右端から要素を見ていくというアルゴリズムが、左右の端に近い要素が入れ替わる形になっていた [i, h, c, d, e, f, g, b, a, j] という元の並び順に対して非常にうまく作用したからに過ぎません。例えば入れ替わった要素の位置が左右の端から遠い位置にある [c, d, i, h, e, b, a, f, g, j] のようなケースでは、

(図:クイックソートでの並べ替えの流れ。計12回の移動が生じている様子。)

と、今度は12回も移動が発生してしまいます。クイックソートは場合によっては同じ要素を何度も移動する事になるため、タブの移動のコストが大きい事が問題となっている今回のような場面では、デメリットの方が大きくなり得るのです。

また、クイックソートには「ソート結果が安定でない」という性質もあります。各要素のソートに使う値がすべて異なっていれば並べ替え結果は安定しますが、Firefox Multi-Account Containersでの「タブのコンテナごとに整理する」というような場面では、同じグループの要素の順番がソートの度に入れ替わってしまうという事になります。このような場合は要素間の比較の仕方を工夫するか、別のソートアルゴリズムを使う必要があります。

どうやら、このアプローチでは一般的に効率よくタブを並べ替えるという事は難しいようです。一体どうすれば「人が目視でするように、可能な限り少ない移動回数で、タブを目的の順番に並べ替える」という事ができるのでしょうか。

diffのアルゴリズムを応用する

このような問題を解決するには、diff編集距離といった考え方が鍵となります。

Unix系の環境に古くからあるdiffというコマンドを使うと、2つの入力の差を表示する事ができます。Gitなどのバージョン管理システムにおいてもgit diffのような形で間接的に機能を利用できるようになっているため、各コミットで行った変更点を見るために使った事がある人は多いでしょう。例えば、A = [a, b, c, d] と B = [a, c, d, b] という2つの配列があったとして、AとBの差分はdiffでは以下のように表されます。

  a
- b
  c
  d
+ b

行頭に-が付いている行は削除(AにはあってBには無い)、+が付いている行は追加(Aには無くてBにはある)を意味していて、これを見れば、「Aのbを2番目から4番目に移動する」というたった1回の操作だけでAをBにできるという事が見て取れます。このような「最小の変更手順」を求めるのが、いわゆる「diffのアルゴリズム」です。

つまり、これを「タブの並べ替え」に当てはめて、 「現時点でのタブの並び順」と「期待される並び順」とを比較し、算出された差分の情報に則ってタブを実際に移動するようにすれば、最小の手間でタブを並べ替えられる というわけです。

JavaScriptでのdiffの実装

diffの実装というとdiffコマンドが真っ先に思い浮かぶ所ですが、diffをライブラリとして実装した物は各言語に存在しており、もちろんJavaScriptの実装もあります。以下はその一例です。

diffのアルゴリズムをタブの並べ替えに使うには、こういったライブラリをプロダクトに組み込むのがよいでしょう。ただ、その際には以下の点に気をつける必要があります。

  • ライブラリのライセンスが他の部分のライセンスと競合しない事。
  • ライブラリの内部表現を機能として利用できる事。
  • 入力として任意の要素の配列を受け受ける事。

ライセンスの事は当然として、内部表現が利用できるとはどういう事でしょうか。

前述の例の「行頭に-+が付く」という表現は、git diffなどで目にする事の多い「Unified Diff」形式に見られる表記ですが、これはあくまで最終出力です。ライブラリ内部では、相当する情報を構造化された形式で持っている事が多いです。npmのdiffであるjsdiffの場合は以下の要領です。

[
  { count: 1, value: [a] },                // 共通の箇所
  { count: 1, value: [b], removed: true }, // 削除された箇所
  { count: 2, value: [c, d] },             // 共通の箇所
  { count: 1, value: [b], added: true }    // 追加された箇所
]

先のテキストでの表現をパースしてこのような表現を組み立てる事もできますが、ライブラリの内部表現→出力結果のテキスト表現→内部表現風の表現 という無駄な変換をするよりは、素直に内部表現をそのまま使えた方が話が早いです。

また、ライブラリの入力形式には任意の配列を受け付ける物である方が望ましいです。文字列のみを入力として受け付けるライブラリでも使えなくはないのですが、内部ではどの実装も基本的に配列を使っています。こちらも、比較したい配列→ライブラリに与えるための文字列→内部表現の配列 という無駄な変換が必要の無い物を使いたい所です。

npmのdiffパッケージであるjsdiffは、これらの点で使い勝手が良いのでおすすめの実装と言えます。

diffのアルゴリズムを使ったタブの並べ替え

diffを使ってタブを並べ替えるには、「ソート前の配列」「ソート後の配列」に「作業中の状態を保持する配列」を加えた3つの配列を使います。

const tabs = await borwser.tabs.query({ currentWindow: true });

const beforeIds = tabs.map(tab => tab.id); // ソート前のタブのidの配列
const afterIds  = tabs.sort(comparator)
                      .map(tab => tab.id); // ソート後のタブのidの配列
let   currentIds = beforeIds.slice(0);     // 現在の状態を保持する配列(ソート前の状態で初期化)

次に、ソート前後のタブのidの配列同士の差分を取り、その結果に従ってタブを移動していきます。

const differences = diff.diffArrays(beforeIds, afterIds);
for (const difference of differences) {
  if (!difference.added) // 削除または共通の部分は無視する
    continue;
  // ここにタブの移動処理を書いていく
}

タブの移動による並べ替えという文脈では、「削除」の差分で操作されるタブは対応する「追加」の操作によっても操作されます。また、「なくなるタブ(=処理中に閉じなければいけないタブ)」は原則として存在しません。よって、差分情報のうち「共通」と「削除」は無視して、「追加」にあたる物のみを使用します。

「追加」の差分情報を検出したら、まずタブの移動先位置を計算します。tabs.move()はタブの位置をindexで指定する必要がありますが、この時のindexは以下の要領で求められます。

  // 以下、forループ内の処理

  // 移動するタブ(1個以上)
  const movingIds = difference.value;
  // 移動するタブ群の中の右端のタブを得る
  const lastMovingId = movingIds[movingIds.length - 1];
  // ソート後の配列の中で、移動するタブ群の右に来るタブの位置を得る
  const nearestFollowingIndex = afterIds.indexOf(lastMovingId) + 1;
  // 移動するタブ群がソート後の配列の最後に来るのでないなら、
  // 移動するタブ群の右に来るタブのindexを、タブ群の最初のタブの移動先位置とする
  let newIndex = nearestFollowingIndex < afterIds.length ? currentIds.indexOf(afterIds[nearestFollowingIndex]) : -1;
  if (newIndex < 0)
    newIndex = beforeIds.length;

  // 移動するタブ群の左端のタブの現在のindexを調べる
  const oldIndex = currentIds.indexOf(movingIds[0]);
  // 現在の位置よりも右に移動する場合、移動先の位置を補正する
  if (oldIndex < newIndex)
    newIndex--;

タブ群の移動先の位置を求めたら、いよいよtabs.move()でタブを移動します。このAPIは第1引数にタブのidの配列を渡すと複数のタブを一度に指定位置に移動できるので、APIの呼び出し回数を減らすためにもそのようにします。

  // 実際にタブを移動する
  browser.tabs.move(movingIds, {
    index: newIndex
  });
  // 現在の状態を保持する配列を、タブの移動後として期待される状態に合わせる
  currentIds = currentIds.filter(id => !movingIds.includes(id));
  currentIds.splice(newIndex, 0, ...movingIds);

タブの移動はAPIを介して非同期に行われますが、タブの移動指示そのものはまとめて一度にやってしまって構いません。むしろ、途中でtabs.move()の完了をawaitで待ったりすると、タブの並べ替えの最中に外部要因でタブが移動されてしまうリスクが増えるので、ここはバッチ的に同期処理で一気にやってしまうのが得策です。

ただしその際は、2回目以降のtabs.move()に指定するタブの移動後の位置として、前のtabs.move()の呼び出しで並べ替えが完了した後の位置を指定しなくてはならないという点に注意が必要です。そのため、ソート前後の配列とは別に「並べ替えが実施された後の状態」を保持する配列を別途用意しておき、それだけを更新しています。前述のコード中で「タブの現在の位置」を求める際に、tabs.Tabindexを参照せずにこの配列内での要素の位置を使用していたのは、これが理由なのでした。

実際の並べ替えの様子を、最初と同じ例を使って見てみましょう。[i, h, c, d, e, f, g, b, a, j] を [a, b, c, d, e, f, g, h, i, j] に並べ替えるとします。初期状態は以下のようになります。

  • beforeIds: [i, h, c, d, e, f, g, b, a, j]
  • afterIds: [a, b, c, d, e, f, g, h, i, j]
  • currentIds: [i, h, c, d, e, f, g, b, a, j]
  • 実際のタブ: [i, h, c, d, e, f, g, b, a, j]

この時、beforeIdsafterIdsを比較して得られる差分情報は以下の通りです。

// 実際にはvalueはタブのidの配列だが、分かりやすさのためにここではアルファベットで示す
[
  { count: 2, value: [i, h], removed: true },
  { count: 2, value: [a, b], added: true },
  { count: 5, value: [c, d, e, f, g] },
  { count: 2, value: [b, a], removed: true },
  { count: 2, value: [h, i], added: true },
  { count: 1, value: [j] }
]

前述した通り、ここで実際に使われる差分情報は「追加」にあたる以下の2つだけです。

  1. { count: 2, value: [a, b], added: true }
  2. { count: 2, value: [h, i], added: true }

まず1つ目の差分情報に基づき、aとbを移動します。移動先の位置は、bの右隣に来る事になるタブ(=c)のcurrentIds内での位置ということで、2になります。

(図:diffを使った並べ替えの流れ。まず2つのタブを移動する。)

この時、b, aだった並び順も併せてa, bに並べ替えています。タブの移動完了後は、それに合わせる形でcurrentIdsも [i, h, a, b, c, d, e, f, g, j] へと更新します。

次は2つ目の差分情報に基づき、hとiを移動します。移動先の位置は、iの右隣に来る事になるタブ(=j)のcurrentIds内での位置から求めます。jの位置は9ですが、これはhの現在位置より右なので、そこから1減らした8が最終的な移動先位置になります。

(図:diffを使った並べ替えの流れ。次も2つのタブを移動する。)

この時も、i, hだった並び順をh, iに並べ替えています。タブの移動完了後は、それに合わせる形でcurrentIdsも [a, b, c, d, e, f, g, h, i, j] へと更新します。

ということで、APIの呼び出しとしては2回、タブの移動回数としては4回で並べ替えが完了しました。冒頭の例の8回に比べるとタブの移動回数は半分で済んでいます。

クイックソートでは却って移動回数が増えてしまった、[c, d, i, h, e, b, a, f, g, j] からの並べ替えではどうでしょうか。この場合、比較結果は以下のようになります。

[
  { count: 2, value: [a, b], added: true },
  { count: 2, value: [c, d] },
  { count: 2, value: [i, h], removed: true },
  { count: 2, value: [e] },
  { count: 2, value: [b, a], removed: true },
  { count: 2, value: [f, g] },
  { count: 2, value: [h, i], added: true },
  { count: 1, value: [j] }
]

前述の通り、このうち実際に使われる差分情報は以下の2つだけです。

  1. { count: 2, value: [a, b], added: true }
  2. { count: 2, value: [h, i], added: true }

これは先の例と全く同じなので、APIの呼び出し回数は2回、実際のタブの移動は4回で済みます。

(図:diffを使った並べ替えの流れ。タブを4回移動している様子。)

これらの例から、diffのアルゴリズムを用いると安定して少ない移動回数でタブを並べ替えられるという事が分かります。diffのアルゴリズムを用いた差分の計算自体はタブの移動に比べれば一瞬で済みますので、タブの移動回数を少なく抑えられれば充分に元が取れると言えるでしょう。

まとめ

以上、diffのアルゴリズムを用いてブラウザのタブを効率よく並べる方法について解説しました。

冒頭で例として挙げたタブの並べ替え機能を持つアドオンに対しては、以上の処理を実際に組み込むプルリクエストを既に作成済みです。

これらの変更(およびこの記事)は、「ツリー型タブ」での内部的なタブの並び順に合わせてFirefoxのタブを並べ替える処理が元になっています。ツリー型タブではnpmのdiffとは別のdiff実装を使用していますが、diffの結果として得られる内部表現の形式はよく似ており、タブの並べ替え処理そのものは同じロジックである事が見て取れるはずです。

このように「最小の変更内容を計算して適用する」という考え方は、Reactで広まった仮想DOMという仕組みのベースとなっています。コンピューターが充分に高性能となり、富豪的プログラミングが一般化した現代においては、多少の事は力業で解決してしまって問題無い事が多いです。しかし、ネットワーク越しの処理や、携帯端末などデスクトップPCよりも性能が制限されがちな環境などで、何千・何万回といった単位で実行されるような処理にボトルネックがあると致命的な性能劣化に繋がりかねず、そのような場合には「コストの高い処理の実行頻度を減らしてトータルの性能を向上する」という正攻法での性能改善が依然として有効です。

なお、2者間で「変更箇所を検出する」というのは「共通部分を検出する」という事と表裏一体ですが、そのような計算は最長共通部分列問題と呼ばれ、diffのアルゴリズムの基礎となっています。どのような理屈で共通箇所を検出しているのか知りたい人は解説や論文を参照してみると良いでしょう。筆者は理解を諦めましたが……

*1 例えば、タブをツリー状の外観で管理できるようにするアドオンであるツリー型タブでは、親のタブが移動された場合は子孫のタブもそれに追従して移動されますし、既存のツリーの中にタブが出現した場合や既存のツリーの一部だけが別の場所に移動された場合などにも、ツリー構造に矛盾が生じなくなるようにタブの親子関係を自動的に調整するようになっています。

*2 ブラウザ自体のタブの並べ替えにかかる時間の事よりも、むしろ、こちらの副作用の方が問題だと言っていいかもしれません。

*3 愚直な。

2019-04-19

RubyKaigi 2019 - Better CSV processing with Ruby 2.6 #rubykaigi

RubyKaigi 2019の2日目にBetter CSV processing with Ruby 2.6という話をした須藤です。今年もクリアコードはシルバースポンサーとしてRubyKaigiを応援しました。

関連リンク:

内容

この1年、 @284km と一緒にcsvを改良していたのでその成果を自慢しました。せっかく2人で話をするので、時間を分割してそれぞれ話をするのではなく、ずっと掛け合いをしながら2人で話をしました。楽しんでもらえたでしょうか?

Ruby 2.6.3に入っているcsvはどんなケースでもRuby 2.5のcsvより高速になっています。この成果を使うためにぜひ最新のRubyにアップグレードしてください。

最後にも少し触れましたが、まだまだcsvやその周辺に改良すべきことがあります。今回の話でcsvの開発に興味がでてきた人は一緒に改良してきましょう。その気になった人はRed Data ToolsのGitterに書き込んでください。どうやって進めるか相談しましょう。

RubyKaigi 2019でまわりの人たちと相談してstrscanのメンテナンスを引き取ることにしたのでそのあたりの改良もできます。

RubyData Workshop

発表の後、RubyData WorkshopでもRed Data Toolsの開発に参加する人を募りました。すでに数人Red Data ToolsのGitterに書き込んでいる人もいます。やったね!

まとめ

RubyKaigi 2019で最近のcsvの開発の成果を自慢しました。今回は2人での発表だったのでやいのやいのした発表をしました。

Red Data Toolsの仲間が増えたのでよいRubyKaigiでした。

タグ: Ruby
2019-04-20

回帰テストの対象は適切に設定しよう

先日、Bug 1541748 - New tab and restored tab notified via tabs.onCreated can have invalid (too large) index という報告をFirefoxのバグトラッキングシステムに行った結果、提出したパッチがFirefox 68に反映される事になりました。

とはいえ、実はこのパッチで追加されるコードは皆さんのお手元にインストールされるFirefoxには反映されません。何故なら、これは自動テストを追加するだけのパッチだからです。

パッチが投入されるまでの経緯

この報告は、「Firefoxのアドオン開発に使用するWebExtensionsのいくつかのAPIにおいて、タブの位置を示すindexというプロパティが不正な値になる場合がある」という物でした。ただ、これは実はWebExtensions APIの実装の問題ではなく、Firefoxのタブが内部的に持っている対応する情報自体が壊れていたというのが真相でした。

(図:壊れた内部状態が露出した事が原因で、APIの情報が壊れている様子)

「根本的な原因」の方は Bug 1504775 - Index is wrong for restored tabs という別のBugで取り扱われていました。今回の報告と前後してそちらのBugの作業が進行していたため、そちらの方で修正が行われた事の影響として、報告からあまり間を置かずにWebExtensions APIの不具合も自然解消したという状況になっていました。

一般的に、このような「ある報告の原因が別の報告の修正で解消された」というようなケースでは、その旨を記して修正済み扱いとしたり、もしくは重複する報告であるとして処理する事が多いです。

(図:2つのBugに因果関係がある時、両方が閉じられる様子)

このような場合、そちら側に提出されたパッチはBugのクローズに伴って破棄されがちです。しかし今回はそうではなく、Bugはクローズされずに留め置かれ、新たに自動テストを加えるだけのパッチを追加投入する事が承認されました。

これは、根本原因の方のBugがFirefox内部の問題のみを取り扱う物であったのに対し、こちらで報告したBugはアドオンという外部アプリケーションに対する互換性の問題を取り扱っていたからです。

テストは目的ごとに必要

根本原因が修正されたパッチでは、Firefox内部のAPIに対するテストケースは追加されていますが、WebExtensionsのテストケースには特に変更は加えられていませんでした。

今回はFirefoxがたまたま「タブの内部的なindexがそのままWebExtensions APIを通じてアドオンに露出する」という実装を取っていたために、WebExtensions API側の問題も偶然解消されました。しかし、それはあくまで現時点の実装がそうであったからというだけで、将来に渡ってそうであるという事の保証はどこにもありません

(図:内部向けの保証はあってもアドオン相手の保証は無いという様子)

よって、今後Firefox内部の実装やWebExtensions APIの実装が変更された場合に、人知れず再び同じ問題が起こるようになるという可能性は依然としてあります。

そのため、今回のパッチでWebExtensions APIのレイヤにおいて後退バグ*1が発生していないかを検出するための回帰テスト*2を追加することで、WebExtensions APIに意図せず影響を与えてしまう(そのような変更が気付かれずに投入されてしまう)という事故の発生を未然に防ぎ、APIの安定性を保証しやすくしたという事になります。

(図:保証する相手ごとにテストがある様子)

気をつけて欲しいのは、これは「単体テストと結合テストではレイヤが違うので、単体テストで検証済みの事もすべて結合テストで再検証しよう」という話ではない、という事です。同じ事を保証するテストがそれぞれの実装レイヤに含まれるという事はあり得ますが、それはあくまで結果的にそうなっているだけに過ぎません。テストは誰に対して何を保証するか、という観点で整備される事が重要です。

今回は「Firefox内部向け」と「アドオンという外部アプリケーション向け」のそれぞれで修正・互換性を保証する必要があったためにこうなったわけです。

まとめ

Firefoxに投入された自動テストのみのパッチの背景説明を通じて、テストの目的とテストを追加するかどうかの判断基準の一例をご紹介しました。

自動テストの追加は、ドキュメントの修正に次いで「外部のコントリビューターとして開発に参加する最初のステップ」として取り組みやすい作業です。自動テストが全く存在しないプロダクトや、自動テストがあっても特定の機能についてテストが不足しているというケースに遭遇したら、皆さんもぜひテストの追加に取り組んでみて下さい。独りでやりきるには不安があるという方は、スケジュールが合うOSS Gateのワークショップに参加してサポーターの人に相談してみても良いかもしれません。

*1 今まで期待通りに動いていた物が、別の変更の影響で期待通りに動かなくなってしまう事。

*2 ある問題を修正したときに、問題が発生しなくなっている事を検証するテストのこと。

2019-04-23

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