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株式会社アカツキさまでの新人研修の一環としてOSS Gateワークショップを実施しました

結城です。

当社のOSS開発支援サービスではこれまで、SpeeeさんでのOSS開発支援やご相談窓口の設置、Supershipさまでの研修の実施などに携わって参りました。この記事ではその新たな事例として、株式会社アカツキさまで昨年および本年の新人研修の一環として開催した OSS Gate のワークショップを社内にて複数回開催させていただいた件をご紹介します。

アカツキさまへのクリアコードの関わり方

株式会社アカツキさまの事業の柱の1つはゲームの開発・運営です。お話を伺ったところ、ゲーム業界では(少なくとも、ファミコンに端を発するコンソールゲームの業界では)伝統的に、会社ごとに自社開発のライブラリやノウハウを抱え込む事が多かった事から、開発の成果を公開したり社外に開発の中心があるOSSの開発に参加したりという事はそれほど積極的には行われない傾向があるとのことでした。

しかし、現代のゲーム開発では技術が1社だけに閉じないケースが多くなっています。オンラインゲームではサーバー側の技術基盤は一般的なWebサービスと変わりませんし、クライアント側においてもUnityのスクリプトエンジンが.NET FrameworkのOSS実装のMonoであったりします。また、ゲーム本体から周囲に目を向ければ、そもそも開発に使用するGitやVisualStudio CodeなどのツールもOSSです。このように、サービス提供も開発も今やOSS無しではままならないというのが実情です。こういった背景があり、アカツキさまでは「会社としてOSS活動を推進していきたい」という意気が高まっていたそうです。

これを踏まえて、アカツキさまの技術アドバイザーSpeeeさまの技術顧問を兼任されている井原さんから当社をご紹介頂き、アカツキさまのOSS活動推進の取り組みをお手伝いさせて頂くこととなりました。その際、具体的な取り組み方について相談した結果、まだOSS活動に関わったことがない人が多い・(今後の進め方を考えるために)当社が現状を把握したいという理由から、まずは当社メンバーが案内役を務める形で OSS Gate ワークショップをアカツキさま社内で開催することとしました。

OSS Gate ワークショップ in アカツキ

OSS Gate ワークショップは、参加者を「まだOSS開発に関わった事が無い人=ビギナー」と「OSS開発に関わった経験がある人=サポーター」に分けて、ビギナーが主体的に作業を進めるのをサポーターが手助けする*1という形で、バグ報告やパッチの提供などの「フィードバック」をする体験をして頂くイベントです。今回は、ビギナーとしては主に新入社員の方や中途採用されて日が浅い方に多くご参加頂く結果となりました。また、通常の公開で行う OSS Gate ワークショップではサポーターは広くボランティアを募っていますが、今回はサポーターも皆アカツキさま社内の方に務めて頂きたいという事で、こちらも社内で希望者を募ったり、アカツキ内でこの取り組みの主担当をされているシニアエンジニアの島村さんから指名して頂いたりしました。これは、サポートする側を経験して頂く事により、普段から業務の中で他の方のOSS開発への参加を手助けして頂きやすくなればという目論見があったためです。

開催形態は東京で開催している OSS Gate ワークショップの形態を踏襲し、1人のサポーターが1~2人のビギナーと組む形としました*2。参加希望者のスケジュールが合う日がバラバラだったため複数の日に分けて開催することとし、2018年には4回、2019年には3回に分けて実施しました。

ワークショップは通常は1日がかりで行いますが、今回はアカツキさまの業務の都合もあり、内容を一部省略して所要時間を2/3~半分程度に短縮しての実施としました*3

(写真:2019年開催分の様子)

各回の参加者アンケートは OSS Gate ワークショップのリポジトリで公開されており、以下から閲覧可能です。

OSS Gate ワークショップはフィードバックの過程を体験して頂くという趣旨のイベントなので、バグ報告やパッチ提出などの形に残る結果を出すことを必須には設定していません。そのため、通常の OSS Gate ワークショップはフィードバックに至る手前で時間切れになる方も多いです*4。ただ、アカツキさまでの開催分については研修で前提知識が共有されている部分が多いためか躓きはあまり発生せず、ほとんどの方が時間内に実際にフィードバックを行う段階まで到達されていました。

筆者が印象的だった出来事としては、ビギナーの方が選択を検討されていたソフトウェアが実はOSSではなかった、という事例がありました。ゲーム業界ということでUnityを使われている方が多く、その方は「ユニティちゃんライセンス」が設定されたプロジェクト(unity3d-jp/unitychan-crsなど)へのフィードバックを検討されていたのですが、調べてみると、当該ライセンスはOSIが認定済みのOSSライセンス一覧には掲載されていませんでした*5。この事例のように、GitHubにリポジトリがある・ソースコードが閲覧可能な状態になっているからといってOSSであるとは限らない、という点は意外と見落としてしまいがちなので、皆さんもくれぐれもご注意下さい*6

なお、この一連のワークショップが契機となってか、後に参加者の方が新たにOSSを公開されたという事を後からお知らせ頂きました*7。OSS Gate ワークショップではフィードバックをする際の注意点として「作者(プロジェクト運営者)にとって分かりやすくなるように報告内容を整理する」という事を度々伝えていますが、自分自身が作者としてOSSを公開する側になると、実際にフィードバックを受ける際にどのようなフィードバックであれば助かるかという事を、より実感を持って考えられるようになるはずです。得るものは多いと思われますので、開発したソフトウェアをOSSとして公開する事にも、皆さんには是非チャレンジして頂きたいです。

継続的なOSS活動の推進のためのふりかえり

アカツキさま社内での OSS Gate ワークショップ開催は、ゴールではなく最初の一歩という位置付けです。そのため、毎回のワークショップ終了後にはアンケートの回答を見ながら参加者全員で「どうすれば、社内にOSS活動が根付くか?」という事を考えるふりかえりの時間を設けました。

ワークショップ後も継続してフィードバックしていく事が根付くかどうかが課題であるという点は、公開で開催されている OSS Gate ワークショップと共通している様子でした。アカツキさまのケースでは特に、「業務と並行してフィードバックも行う」という事を全体でどう習慣化していくかが課題という事になります。この点について、各回のアンケートの回答からは、現在は「普段の業務」と「OSS活動」を全く別の物として捉えている方が多いようで、「普段の業務をしていると、OSS活動をする時間がない」と認識されている様子がうかがえました。

業務上使用しているツールやライブラリの不具合を見つけた場合、仮にそれが自社開発の物であれば、不具合を伝えて修正してもらうという事は、業務の中の出来事として受け入れやすいでしょう。その際にはもちろん、修正する側にとってわかりやすい形の障害報告にするという事も求められるはずです。業務で使用するOSSへのフィードバックも、報告先が公開のイシュートラッカーであったり、報告に使う言語が英語であったり*8という差異はあるものの、基本的にはそれと同じ事と言えます。よって、心理的な障壁をどのようにして取り除くか、いかにして「業務の活動をしていたら、それが自然とOSS活動になっていた」と言える状況を作るか、という事が重要なのではないかと思われます。

ただ、業務での開発では「ライブラリやツールのバージョンは開発時点の物で固定し、最新版へは更新しない」といった事も行われがちです。その場合、フィードバックの結果が業務に反映されることが無いという事になってしまうので、開発元へのフィードバックに時間を使う事に対して「業務と無関係な事をしている」感覚が強くなってしまう、という側面はありそうです。この種の問題については個人でどうにもなりませんので、むしろ、古いバージョンのソフトウェアを使い続ける事にはセキュリティなどの面でリスクがあるという認識を全員で持って、適宜ソフトウェアのバージョンを上げていく健全な開発・メンテナンスのスタイルを取り入れていくという、普段の開発そのものの見直しも必要になってくるでしょう。

こういった事を全体で一気に推し進めるのは困難が伴います。アカツキさまでは元々、日常的にフィードバックをされている方の周囲ではスポット的にそのような動きが見られるとのことですので、全体を一気に改革するという事には拘らず、周囲の人に影響を与えるリーダーとなる人を増やした上で部分部分のできる所から進めていく、というのが無理のない進め方なのかもしれません。

また、この取り組み全体を担当されているシニアエンジニアの島村さんと一緒に行った、全体を通してのふりかえりの中では、OSSへのフィードバックで困った人が表れた時の気軽な相談先として当社をお使い頂く、というような方向でのOSS推進もご検討頂きました。

まとめ

以上、アカツキさまでのOSS推進の取り組みの一環として実施した OSS Gate ワークショップの様子をご紹介しました。

当社では「自社内にOSS開発者を育てたい」「OSSへのコントリビュートを行いたい」といった企業さまのご依頼を受けて、人材育成や社内文化の改善といった観点からご協力させて頂くというOSS開発支援サービスを行っています。今回のアカツキさまでの事例のように、社内事情に合わせて規模や内容をカスタマイズしての OSS Gate ワークショップ開催のお手伝いも承っております。社内で旗振り役を務められる人が少ないためにOSS活動をうまく推進できていない、などのお悩みをお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非メールフォームよりお気軽にお問い合わせ下さい。

なお、近い日程では2019年6月8日にOSS Gate 東京ワークショップが開催される予定です。公開のOSS Gateワークショップはサポーター側が不足しがちなため、ビギナー側での参加は枠がすぐ一杯になってキャンセル待ちになりやすいのですが、「バグ報告をした事がある」という方はサポーターとして登録して頂ければ、多くの場合はそのまま参加できます。会社としてOSS活動を奨励していきたいという方は、実際にワークショップに参加して頂くと雰囲気や要領を参考にして頂けると思いますので、是非ご検討下さい。

*1 詰まった時にヒントを出す、迷ったときにアドバイスするなど。

*2 東京開催分は、現在は基本的に1人のビギナーに1人以上のサポーターが付く形態とし、サポーターの人数以上のビギナーを集めない方針を取っています。アカツキさま社内での開催に関してはビギナー参加者を可能な限り多く受け入れる必要があったため、進行役・サポートメンターを加えればマンツーマンに相当する人数比は維持できそうという事から、この人数に設定しました。

*3 過去には、PHPカンファレンスの中で一室を借りて実施した際にもこの形態を取りました。

*4 Gitの使い方に手間取ったり、課題選びに悩んだり、選んだ課題の規模が大きすぎて準備に時間がかかったり、という例が多いようです。

*5 OSIでは、オープンソースの定義に合致していて、且つOSIで認定されているライセンスに基づくソフトウェアのみをOSSと呼ぶ事を推奨しています。また、よくある質問の回答として、オープンソースの定義に合致していても一覧に掲載されていない物をOSSライセンスと称する事は混乱を招くため、(承認され一覧に掲載されるまでは)「独自のOSSライセンス」を無闇に策定・自称しない事が求められています。なお、筆者がユニティちゃんライセンスの文面を確認した限りでは、営利目的での利用の禁止などの条件がオープンソースの定義に合致しないようでした。

*6 OSSでなくとも、ライセンスの条件に従って利用する限りにおいては何ら問題ありません。また、OSSライセンスでないライセンスを設定する事もここでは否定していません。ただ、OSSライセンス同士であっても条件が互いに矛盾するために成果物を組み合わせられない場合はあり、OSSライセンスとOSSでないライセンスとの組み合わせでは余計にそのような状況が発生しやすい、という事は言えます。

*7 s-luna/AndroidReplayRecorder

*8 作者が日本語話者のOSSでは、日本語でフィードバックするという事もありますが、多くの場合は英語が使われています。

2019-05-29

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